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第06話 非実力派 (ひじつりょくは)




 「…きゃあああああああああああああああああああああっ!」

 ツプ、っという音が聞こえたかどうか。俺等の斜め向かいにいた女が、奈落の底へ心から先に落ちていった。いよい
よ、尋常じゃないと自認するどよめきが沸きあがってきた。女とコンクリートを繋ぎ止めるは、裁縫の縫い針をそのまま
デカくした一本の針。
 ……見比べれば一目瞭然か。ミイラ忍者の一人と、他の奴との違い。一人だけ、口許が怪しく光っていなかった。
…俺の腕にしがみつく由衣に、深奥の刺し傷を垣間見ざるを得なかったのが痛い。








 「おいこら、全然動かねえぞ?」
 「致し方ありません。おそらく、何らかの事情がおありなのでしょう」

 はいはい、仰る通りだわな。何処見渡しても、さっきから車やらバスやら道路で糞詰まってんのぐらい判るっつうの。
頬杖ついて待ってやりゃいいんだろ、はいはいっ。丁度なんかのイベントで鉢合わせたんだろうよ。

 「…辰巳さん、あちらをご覧くださいませ」
 「ああ、さっきからご覧致してるっつうの」

 要らねえ状況説明ご苦労さん。黒山の人だかりぐらい俺にも見えるぜ。ま、黒山が何処か教えさえすりゃ褒めてや
ってもいいが。あーあ、退屈だ退屈だ。帰る頃には明るくなってんじゃねえの。








 「…うーん、こりゃ当面動きそうにないですねえ」
 「はは、長門の図太さを俺も見習いたいもんだなあ」

 と、わたくし達の後ろにいらしたトレーラーの運転手と相手の方。お二方とも、作業着をお召しでいらっしゃいます。
運送会社の方々でしょうか。助手席に座る新入社員(と思われる)の方を、運転手の上司の方は羨望の目をもって眺
めていらしたのでした。

 『長門君、白鳥さん。もう少し気を詰めてもらえないか』
 「…申し訳ございません。自然と即心に凭れていたと釈します」
 「お言葉ですがねえ、副社長。端から見ればやはり、誰もが特撮のゲリラ撮影にしか思わんでしょう。俺も未だ実感
が湧きませんわ」

 お二方の感じていらっしゃる何かと何かとの乖離に、副社長の方は気が気ではないようでした。しかし、副社長の
方はこちらにはいらっしゃらないようです。一体どちらに…?

 「まあしかし、人の流れが尋常でないんだったら………俺もいい加減、事が起きたと認めにゃならんでしょうし。…
…行かれますか、副社長」
 『ああ、是非とも。被害者が出てからでは……一刻でも早く、止めねば。長門君』
 「承知致しました」

 助手席のダッシュボード(に相当する所)に取り付けられたパネルの、とあるボタンを新入社員の方は押されたので
した。後部から、何らかの機械音とともに扉の開く音が聴こえるようです。

 『では、いくぞ!』
 「ご武運を、副社長」

 と、見送った社員の方の横を黒い影が通り過ぎていきました。破魔の化身か悪魔の化身か、道行く人にはその素
性は見えません。

 「ほう、速い速い」

 上司の方が瞬きする刹那に、影は視野には映らなかったようでした。








 「…ん!?」
 「えっ、お兄ちゃん?なにっ?」
 「…いや、背中がなんかくるもんっつうか」

 ……どうやら、由衣には判らなかったようだが。第六感って言えばいいのか、出し抜けに背中をくすぐられるような
悪寒を感じていた。悪戯されて仰天してる時の由衣にも判るような、逆立つ感じか。

 「――――――!」

 プス、よりどさっという音のほうが耳障りだった。…またか?
 …………いや、違うな。毒牙にかけられたのは人でなく、ミイラだった。乗り捨てられたタクシーの真ん前で、針の
変わりに苦無(?)で釘打たれている。………お生憎様、鬼籍入りしてるようだが。

 「―――其処迄だ!」
 「…へっ!?」

 えっ、何処何処!?こ今度何っ?!…見てみたくても、首の油が切れちゃったみたいっていうかどうしても後ろが向
けなくって。

 「…!?お、お兄ちゃんっ!」
 「…今、なんか乗り場の屋根走ってるっぽいな」

 他に言うことないんで、はい。カラスが屋根の上を颯爽と駆けるかのごとく、ミイラ忍者と違う影がそいつらに詰め寄
っている…らしい。

 「皆、ここは危険だ!退がってくれ!」

 とんと奴らの前に止まり、ふと振り向いたその横顔は……忍者、だった。現代風の。

 「あ、はい」

 …いやあ、俺も気が弱いですなあ。もっとも、俺や由衣に限らずとも脊髄反射で皆蜘蛛の子を散らしていた。逃げろ
とは言わなかったんで、建物にへばりつくようにミイラと忍者を見ていたが(理屈っぽいか)。
 三日月が見えないのが、唯一惜しかった点か。…って、何かを通り越せば案外客観的な目で物を見れるのかも判
らない。

 「なっ…………」
 「さあ、何でしょうねえ」

 俺の腕にしがみついて絶句する由衣の代わりに、説明しよう。
 スキューバダイビングで着るようなインナースーツに、プロテクターみたいな金属が足に脹脛に、腕にと張り付いて
いる。忍者風に言い直せば、鈍い銀色の脚絆と手甲に見える。
 特に腰周りから胴体、肩にかけては真っ黒な鎧だか甲冑だかをしっかり着込んでいる。肩のアーマー(って便宜上
呼ぶが)が微妙にデカい、っていうか。それにコネクターらしいのが2つあって、それ系のアニメだの映画だのでお馴
染みの柄が刺さっていた。
 頭は頭巾かマスクっぽい形で、しっかりとヘルメットで覆われている。素顔をアピールできるのは、ヘルメットが覆っ
ていない目だけだ。目つきだけで人を覚えろって言われても、記憶力は達才でなくて人並みにダサいんで。…?俺何
言ってんだ?

 「ついに暗流に堪えかね、姿を現したか!だがそれ以上、お前達の好きにさせん!」

 …その人の言うこと、どっかで聞いたことある気がする。……あっ、お兄ちゃんがこっそり見てる特撮でそんなこと言
ってたっけ。………どうしてかな、見た目は怖いはずなのにこの人の言うことなら信じられそう。何となく、少しだけ怖
くなくなってた。

 「行くぞ!」

 いつまでも喋っていちゃ、正義の味方さんも惨めだ。有言実行すべく、肩から柄を抜いてミイラと対峙する。抜き放っ
たそれから、オレンジがかった蛍光灯の光が燦然と照らしている。やっぱり特撮とかでお馴染みの、光放つ刃だっ
た。
 痺れを切らし、下っ端のミイラがそいつを打ち抜こうと針を吐き出す。ひゅっと風切る音より速く忍者は旋回してみ
せ、腰元から横一文字にばっさり薙いでいた。勢いが良過ぎたのか、斬られたそいつは吹っ飛ばされてバスターミナ
ルの奥に消えていった。

 「あと3人か………」

 と忍者が漏らしていたが、俺等に聴こえるわけもなく。正四面体を平面化したみたいに、ミイラ3人は忍者を三角形
に取り囲む。辺の構成上飛び込める点は3点だが―忍者は前方と後方の3点すべて、ミイラはすべて前方1点のみ。
さて、お互いどう出るやら。









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