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第08話 隠密甲冑
(おんみつかっちゅう)
…長門氏の話によると。
今夜札幌駅前を占拠したのは、『非実力派』という過激派の武装及びテロ集団である。『(ゼロのための)スタートラ
イン』を標榜・大義名分とし、交通機関や市場といった施設の破壊活動を中心に行う集団であるとのことだ。何らかの 組織とのつながりもある、との疑いもあるそうで。10数年にわたり、非実力派の監視活動を彼等は続けてきたのだと いう。警察等の国家機構に知られることなく秘密裡に。
そして、今回初めて非実力派が表立った行動を起こしたのだそうだ。『非実力派』の監視活動を続けてきたその組
織こそ、彼等サックルであった。表向きはロボット産業に関するベンチャー企業であり、その実態は先に述べた通りの 活動を行っている。
副社長・岡部惣一郎氏を当部署の代表とし、白鳥則男氏と長門信二氏が属しているそうだ。この部署は企業内機
密とされ、彼等と社長の岡部清三氏を除いては社員の中で知る者はいないという。
また、今回の件のように警察や自衛隊等の国家権力の介入が困難な場においても、彼等は活躍する。それこそ
が、岡部氏の身に纏う甲冑―――『コンシールメント・メイル(Concealment-Mail)』をもって、非実力派の成員の打倒 を行うという任務である。コンシールメント・メイルはサックルが開発した、潜入捜査・戦闘用甲冑である。
メイル(甲冑)は極めて軽量であり、RPG(ロケットランチャー)の直撃にも耐えるほどの強度を持つ。インナースーツ
は伸縮性に優れ、身長140-210cmまで対応可能であるそうだ。標準装備は飛び苦無のThin-Blade(シン・ブレード) ×3、敗走時に用いた催眠・煙幕ガス発生手榴弾のShimmer-Fog(シマー・フォグ)×3。追加武装(SEAL-0)が、光 量子収束刃を発生するQuantum-Saber(クワンタム・サーベル)×2である。
クワンタム・サーベルは両肩にマウントされ、内装されたドライ・セルからエネルギー供給を受ける。ドライ・セルはコ
ンシールメント・メイルの動力源でもあり、蛍光灯程度(約500ルクス)の光でも充電可能であるそうだ。1分程度の充 電で24分間活動可能となり、最大稼働時間は12日間とのこと。
岡部氏の纏っていたものは第1期試作型(SEAL-0)であり、幾つかの機能が未搭載であったという。その一つが、
人間の第6感に働きかけるセンサーなのだそうだ。以後の第2期試作型(SEAL-1〜SEAL-5)に搭載され、SEAL-4は Psycho-Enhancer(サイコ・エンハンサー)、それ以外は簡易版のPsycho-Supplementary(サイコ・サプルメンタリ ー)を装備している。
これを介し、コンシールメント・メイルは搭載されていない能力の発動が可能となる。しかしながら、サイコ・エンハン
サーやサイコ・サプルメンタリーの動作は保障されていないそうだが。5着のコンシールメント・メイルが製造されたき り、検証の機会もないままであったという。
その故に、第2期試作型の装着員選出に難航しているという点が挙げられる。彼等の活動が倫理・道徳を(表面
上)逸した理由であるため、人材を集めるための術に苦慮しているという。しかしながら、由衣の勇断を端にこうして5 人が集まり………長門氏と白鳥氏は、自身や皆を装着員に選出したいとのことであった。
「…とまあ、我々と非実力派の概略についてはこんな感じです。城さんのお車の修理代金、瀧月さんの駐車料金超
過分もこちらで全て負担致します。…副社長が復帰するまでの代理としてでも構いませんので、どうか賛同して頂け ないでしょうか。報酬も、相応額をお支払い致しましょう」
「…ほう」
…ふーん、なるほどな。ま、車の損害賠償すんなら許してもやるし……出る度に金払ってくれんなら悪くもなさそう
だ。実質、俺等は契約社員といった所か。刺激にもなれば、遊ぶ分の金も十分に稼げそうだしよ。
「わたくし達や長門様方に、190万人余りの命が委託されていると解して宜しいのでしょうか」
…信じることが難くも思われましたが、お二方のその眼差しは虚偽を騙っているように思えません。…このような大
業を、僅か三人で行っていらしたとは。…あまりにも荷重ではないでしょうか。…恐れはあれども、手をこまねく訳には 参りません。わたくしにも、出来るのならば。
「まあ、詰まる所はそうだわな。悪いな、急な話でさあ。でもよ、副社長の労苦も労ってやってくれねえべか。損な役
回りばかり買って出て、どの奴よりも身を粉にしてやってきたのは副社長なんだわ」
「…はいはい、なるほどね」
…にしても、八百長くさい気もするんですけどね。まあ、気のせいか。現に人ひとりが殺された訳で。下手すれば、
家族や近親者も狙われる可能性も無きにしも非ず。敵さんに俺等は見られてたんだろうし。予防事業に参加しても、 俺は構わないが。
「正当な評価はされずとも、陰ながら治安を守りたいって信念でよ。今日は身をもって、俺等に諭したんだろうな。…
ははは、俺等がこんな体たらくじゃ詫びようがなあ」
「…大丈夫です、私達もお手伝いしますから。……不束者な私ですけど、宜しくお願いしますっ」
甲の心構えを真似て、長門さんと白鳥さんの前でお辞儀した私。……怖いけど、心許ないけど…………そうして、
副社長さんはずっと耐えてきたんだもの。何時までできるか判んないけど、今度は副社長さんを助けてあげたい。一 人でも多くの人がぐっすり眠れるように、陰から守れるなら。私、やるよ。
「…皆さん、賛同して頂けるのでしょうか」
「…ん」
皆を代表し、鷹揚に頷いた。単に安堵を由衣に付すのみならず、法の下の平等が保障されているならば皆にも付さ
れねばならない。この行いが乱心と揶揄されようとも…やはりその行いを道心と信じ、やまないのだ。続いて由衣、 樋浦、由衣の兄が首を縦に振った。
「ま、しょうがねえな。話に乗るぜ」
最後に、城氏も認諾し個々の想いは不朽の締結により結ばれた。長門氏と白鳥氏は互いを見合い、若干苦渋の表
情をしばし浮かべていた。副社長・岡部氏の意向を聞かずして、独行で事を進めるには忍びない…と、葛藤していた であろうか。
「おし、決まりだな。長門」
「…はい」
機械の操作パネルに取り付けられた、ボタンの一つを長門氏は意を決し押したのだった。降ろされていたスクリーン
が巻き上げられ、其処には―――――
―SEAL-1、伊秩甲。
SEAL-0と比較し、腕力と脚力が総合的に強化された縹色のコンシールメント・メイルである。追加武装はクワンタ
ム・サーベル×2。半径1mの鉄筋コンクリートをも斬り崩すほどの、凄まじい力を有している。
――SEAL-2、瀧月由衣。
SEAL-0と比較して、速力に優れた江戸紫のコンシールメント・メイルだって長門さんが言ってた。追加武装は、甲や
副社長さんのよりひと回り小さいクワンタム・サーベル(S型)×2。二刀流でも扱いやすいらしいけど、私にできるか な。ううん、きっとできるよ。
―――SEAL-3、城辰巳。
SEAL-0と比較して、跳躍力が自慢な藍色のコンシールメント・メイルだそうだ。追加武装はトラックでも平気で持ち
上げられる黒縄・Arrest-Wire(アレスト・ワイヤー)×2と、それだけじゃ心許ないんで鉈風の刀・Hatchet-Blade(ハ チェット・ブレード)も。ふーん。
――――SEAL-4、樋浦蛍。
SEAL-0と比較し、索敵や偵察機能に優れた京紫のコンシールメント・メイルということです。追加武装はなく、代わ
りに両肩のドライ・セルと両腕の手甲にサイコ・エンハンサーが装備されております。これを介し果たして何が起きる か、全く想像がつきません。
―――――SEAL-5、瀧月哲也。
SEAL-0と比較して、脚力が伊秩のものより更に強化された鈍色のコンシールメント・メイルらしい。追加武装は鎌状
に光量子収束刃を発生するQuantum-Sickle(クワンタム・シックル)×2。ブーメランの要領で投げつけても、それは それでOKだとか。なるほど。
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