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 「…ったく、ちょこまか動きやがって!」

 あーあ、ゴキブリ退治とやってること変わんねえっつうの。ハチェット・ブレードを振り回しても振り回しても、○×クイ
ズで答えが真逆になったぐらい当たらねえ。それだけ大将は下っ端より格が高いってか!?ったく!

 「!」
 「…おっ、おいこらっ!」

 天然っ娘の兄貴が、出し抜けにクワンタム・シックルを投げてきやがった。ったく、殺す気か!?助太刀が仇になっ
てるっつうの!後ろは向いてねえが、センサーの感覚でそれぐらいは判る。すんでの所でかわしてやったが、露骨な
戦法ぐらい大将の野郎も見切って軽々と避けていやがった。

 「…まあまあ、悪意はないわけで」
 「…で、でも謝ったほうがいいんじゃないっ?」
 「…はは、悪い悪い」
 「私にじゃなくて、辰巳さんにっ」

 ったく、呑気なてめえらがおめでたいっつうの。何とか詰め寄りはしたが、大将は何も針だけを得物にしていない。
腰の刀を抜き、俺の胸元を切り裂こうとしやがる!

 「けっ、バーカ」

 俺にも奥の手(でもねえか)があんだよ!左腕と指の先から黒光りする黒縄―――アレスト・ワイヤーを伸ばし突き
出してやり、吠える右腕を刀ごと巻きつけついでに腰も縛り付けてやった。往生際悪く、大将はもがきやがっている。
こんだけ雁字搦めにすりゃ、じたばたしても粋のいいマグロにしか見えねえぜ。

 「さて、どうしてくれようか。…ま、昼はわざとじゃねえにしろもろぶつかられてよ。夜は夜で御曹司の坊っちゃまに車
へこまされるしよ。…もとはと言やぁ、てめえらのせいだろうがよ!こうしてくれるぜ!」

 ハンマー投げっぽく野郎を振り回して、鉛直に投げ上げてやった。上がりきった所でハチェット・ブレードを投げ打ち、
見事大将に止めを刺した俺。ドライアイスみてえに、蒸発して奴は消えやがった。…じゃあな、アルテリア・ニードル。
これで今日のストレスは流してやるぜ。

 「…豪快だったね、辰巳さん」
 「ん」
 「ありゃ常日頃から、ストレスもフラストレーションも溜まってそうだな」

 感心してるこいつらのもとに、半泣きのお嬢様…いや、蛍も駆け付けてきた。後でこいつから聞けば、御曹司のお坊
っちゃまは蛍の尽力で完治して寝てるってことだ。ま、それでいいんじゃねえの。人命救助も初陣も取り敢えずどうに
かなったんだしよ。…あー、眠いし背中痛てえし。じゃ、さっさと帰らせてもらうぜ。
















第09話 介添花娘(かいぞえはなむすめ)
















 …………。
 ………………。

 「…………?!」

 …何方かに、覗かれていると感ぜられてなりませんでした。わたくしと辰巳さんのほかに誰もおらぬマンション、まし
て高層階である筈というのに。もしや…いえ、斯様なことは。いたたまれず、目を見開くと―――

 「…………ふう」

 …………。思わず、溜め息をついてしまいました。わたくしの悪念力であったようです。閉め切られていなかったカ
ーテンの隙間から、初陽が射しておりました。わたくしの眠っていたソファ、壁際に置かれたテレビなど、リビングの見
様をおぼろげに映しております。おそらく、着のみ着のままのわたくしの姿もガラス越しに映っているのでしょう。
 …斯様にも、朝は小早なものでしょうか。辰巳さんと出会い、魑魅魍魎を打ち倒してから早一週間と少し。未だ、辰
巳さんのマンションはわたくしの拠所となれぬようです。…無論、辰巳さんにその故は帰属致しません。わたくしの思
様次第なのです。

 「…あら、嫌だ」

 ……テレビ下のレコーダーに表示された時刻は、既に8時をまわっておりました。土曜の朝といえども、些か寝濃い
ものと思われます。…時は在り待ちなど致しません。小早と感ぜられても、やはり朝の刻限なのですから。ブランケッ
トを畳み、時を仕切るカーテンを開け放すと――――

 「…まあ」

 三寒四温の時期とニュースで報じられてからも、早一週間と少し。すずめの行き交う美空に、閃爍に光放つ太陽が
浮かんでおります。日精の降臨を謳歌するかの如く、すずめのさえずりが愛しく聴こえるのでした。

 「…ん、早いなおめえ」

 お部屋から、辰巳さんがお見えになられました。陽の眩さに目が眩まれたのでしょうか、窓に背を向けられていらっ
しゃったのでした。

 「お早うございます、辰巳さん。…不肖のわたくしゆえ、眠れぬものでして」
 「ま、眠れねえならしょうがねえな。…不肖の俺ゆえ、用足しの周期が早えもんでして」

 背伸びをされながら、お手洗いに向かわれた辰巳さんでした。…やはり、わたくしは不肖のようです。何気なく交わ
した言の葉に、燻っていた痼を思い起こしてしまったのですから。……未だ、先行きは見えません。働き口もなく、た
だ辰巳さんのお宅にて家事と勉学のみに励む毎日で。初めてお会いして以来、一度たりともそ―――――

 「…あっ!?」
 「…?!おい蛍、どうした!?」

 お手洗から出られた辰巳さんがご覧になったのは、腰を抑え苦しむわたくしの姿でした。








 …………一週間ぶりに、再び病院へ参りました。辰巳さんの薦めにより、やむなく。わたくしが受診している間に、
辰巳さんはお暇潰しと称しドライブへお出かけになられました。しかしながら、お迎えは夕刻ということでしたので……
合鍵を頂いたことから、本日は通日ドライブを満喫されるのでしょう。
 時刻は9時丁度前の待合のロビー。休日であってもそれなりに患者の方々がいらっしゃいます。診察を受けるまで、
今しばらく時間を要するのでしょう。何気なく辺りを見回してみると、わたくしと同じく腰掛け診察を待つ患者の方々
や、カルテを小脇に抱え早足で歩く看護師の方、そのほかに――――

 「あっ、蛍ちゃんっ!」
 「由衣さん、お早うございます」

 左を向くと、今し方病院の入口から由衣さんがお見えになられました。わたくしの座るベンチまで、微笑みながら小
走りでいらっしゃいました。

 「由衣、もう幼気でないんだから婆ちゃんも恥ずかしいわ。今日は遊びにでなくてあたしの付き添いで来たんでない
の」
 「あはは、ごめんごめんっ」

 照れ笑いをしながら、由衣さんはお連れのお婆さんに振り向―――



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