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第11話 鬼門金神
(きもんこんじん)
…スクールカウンセラーの常勤化、いじめ対策への取り組み。公共事業投資の削減、公共交通機関の延長など。
本来、公約である以上これらの発言に責を負うことは職分であるはずなのだが。しかしながら、我々にそれらの公約 を追う術は限られているのが現状であろう。この大学図書室にて、勉学に励む我々の関連…否、根幹の領域は前者 である。
「…ただいまっ。甲、まだ読んでたんだ」
「ああ。レポートは」
「うん、何とか先生いいって言ってくれたし」
「そうか」
由衣がゼミ担当の講師のもとへレポートを提出し此処へ戻るまでの間、備え付けのパソコンを使用していた。インタ
ーネットを用い、とある候補者の政権公約(マニフェスト)を読むべく。来週末には、とある選挙が行われるため候補者 の一人ひとりを見極めんと思い立ったのだ。
「でも難しいよね、誰に入れていいかあんまり判んないっていうか」
「…ああ。多少面倒であっても、これらを読まねば判らぬ故」
「うんっ」
時刻は午後4時。所変わって、大通公園・テレビ塔の前にて。来週末の選挙戦を控え力説するこの候補の他にも、
各所にて熱弁を奮う候補はあと3名。壇上に立つ候補と後援者を見上げ、歓声を上げるは民心を候補へ託さんとする 民衆が。小雨の降りしきる中、傘を旗の代わりとして声援を送る者もあった。
しかしながら、候補の口から紡がれるは自身の名が7割を占めていたであろうか。ともすれば刷り込みとも思える名
の連呼であった。骨抜きの公約で終わらぬことを願いたいものの、やはり煽動を目的とする演説では"名"の売込み が優位であろう。
…寧ろ学内等にて有識者の話を拝聴する方が、候補者や行政の額裏を垣間見ることが出来るのではなかろうか。
日本の地理から見え隠れする農業の現状、経済の地域格差等。そうした分野における地方の予算割当は僅少であ ると、プレゼンテーションにてグラフを見た時の瞿然とした己の表情を忘れはしない。言葉や文字よりも、説得力があ ったのだった。
安寧を重んじるのみの候補者か否か見極めるべく、候補者の話を聞くのみならず自ら見聞きする必要があろう。必
ずしも、行政において果報は寝て待つものではないと考えている。…尚、自身と由衣はこの場にいないことを断って おこう。
またしても雨音よりも拍手が勝る。鳴る雨が降り止まぬかに思われたその時。…雨空から横太りの男と、忍装束姿
の屍―――アルテリア・ニードル達が候補と民衆の前に降った。喝采が阿鼻叫喚の夕立に変じていく。
「なかなか晴れないね、今週」
「ああ。予報によると芳しくないようだが」
「あーあ。ママとお兄ちゃんと私のシーツ、また私の部屋に干されちゃうなあ」
洗剤の臭いで部屋が満たされてしまう、と言い足すならば由衣はそう付け加えるであろうか。傘を差し、忘れた由
衣を招き入れ駅に向かい歩いている。こうした小雨であれば、一人であるのなら差さずに歩くものの、無論由衣に風 邪を引かすわけにもいかず。互いに、必然と寄り添うことに戸惑いではなく歓びを覚えていた。
「…ん」
「甲、どうかした?」
「ああ、電話が」
携帯電話の振動機能が働き、自身の懐を揺さぶり出したのだった。ジャケットの内ポケットから携帯電話を取り出
し、電話に出る。
「もしもし。…はい……はい………判りました。…………由衣もおりますので、至急向かいます……………判りま
した。では」
「…こっ、甲?」
電話を切り懐に入れた自身を見た由衣でなくとも、巌を模した表情が厳めしくなればそう声をかけざるを得ないであ
ろう。…尋常ではない様が、その表情から由衣は悟ったであろうか。
「…岡部副社長からだ。非実力派が」
「出たの?」
「ああ。大通公園のテレビ塔前だそうだ」
横断歩道の信号待ちにて唇を噛み締めた由衣であった。…何を案ずるかは、およその察しはつくが。…やがて意を
決したかのごとく、由衣は向き直る。
「…行こう、甲。放っておけないもん」
「ん」
互いに見詰め合い深く頷く。信号が青になった刹那、すぐさま互いに走り出した。
「…ったく、遅せえっつうの。バカップルの爺さんと姫さんがよ」
「…た、辰巳さん。おふたりがお見えになられていないとはいえ」
「へいへいっ、判ってるって。こういう性分なだけだぜ、俺はよ」
とあるデパートの地下駐車場。報道陣等による混乱を避けるべく、こちらにトレーラーを停めたということであった。城
氏、樋浦、由衣の兄はとうにコンシールメント・メイルを纏い、自身と由衣を待ちかねていたようだ。
「あーあ。今日はこれじゃ、由衣に部屋が洗剤臭いって泣きつかれるってか」
「あん、なんか言いやがったか?」
「いや、私事なんで。あんたと蛍ちゃんと伊秩には全然関係ないんすけど」
…私がここにいたら、一言余計だって絶対お兄ちゃんに言ってたと思う。でも、独り言を言わせるぐらい確かに時間
は経っていたのかも。たぶん、30分くらい。
「副社長、これ以上手を拱くわけにはいかないでしょう。警察や自衛隊をもってしても、阻止は困難かと」
「…やはり、やむを得まいな。瀧月君、樋―――」
「おおっ、やっと来たかい」
白鳥氏や皆の見守る中。自身は若干肩で息をしながら、由衣は咳き込みながらの到着となった。城氏、樋浦、由
衣の兄。藍・京紫・鈍のメイルをそれぞれ身に纏っていようとも、各々の仕草から誰であるかは判る。相当、待ち尽く したことであろう。しかしながら、詫びる間もないことは皆承知していたであろうか。
「伊秩君、瀧月君。敵の跳梁により、大通公園を中心に皆騒ぎ惑っている。一刻も早く、沈静化させてほしい」
「ん」
「はいっ!」
私達と副社長さんが頷くのを見届けてから、長門さんはトレーラーに来て下さいって私と甲を手招きした。トレーラー
の中で鎮座してた、縹色と江戸紫のメイルがとっても目映かった。―――みんなの人生をめちゃくちゃにしようなん て、絶対許しておかない…!
今や、雨音より喝采よりも勝る嗚咽の夕立。その中で警察の機動隊が果敢にも立ち向かうが、アルテリア・ニード
ルの含み針により絶命する者が数多く。候補や民衆、通行人に怪我人が一人もいないとは何とも皮肉なことであろ う。公私と葛藤しつつも、銃弾を放った警官めがけニードルが含み針を放った刹那。
「―――――!」
針が飛び出そうな所で、お兄ちゃんはアルテリア・ニードル(っていうらしいけど)の一人にシン・ブレードを投げつけ
た。楔を打ち込まれたみたいに、胸からぐったりと倒れていった。
「…待て!」
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