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第14話 落花流水 (らっかりゅうすい)








 …悲嘆の狼煙が、災禍の中枢から恨めしく昇っている。青天の町並みとは、至って相関のない光景であろう。おそ
らく、建物なり車両なりが炎上しているかも分からない。もうもうと昇るそれは、平和という名の霧中で遭難した者達を
嘲笑するかのごとく。
 息の緒を整えつつ、創成川を渡り一散に駆けて行く。太平駅から数km、その中枢まではおよそ1kmを切っていた。








 「…1分という時間の尺度が怪しく感ぜられますな。等しく、人に流れているというのに」
 「…はは、それが人なんでないの。楽しけりゃあっという間、苦しかったら長ったらしくよ」

 …と、白鳥のおっさんは人差し指で鼻をほじり出した。ぴんと弾いた某廃棄物(?)は、へなへなと力なく新入くん
(長門)の足元に落ちる。おっさんを除いては、俺等は若干歯痒さを覚えながらも非実力派の狼藉っぷりを見下ろす
ほかなかった。某スーパーの屋上駐車場から見下ろしている。…まあ、それにしても相変わらず律儀な連中だこと。

 「…でも、どうして普通の人を襲おうとしないんだろう。狙われてるのっていつも、警察の人だけだし。……副社長さ
ん、何か知ってるんですか?」
 「…私も、それが不可解な点と思っている。生産者階級―――平易に言うならば、経営者……ひいては一般人を襲
撃しないことに越したことはないが、どうも理解し難いんだ」

 ふう、って副社長さんは力なく溜め息をついた。…他にももっと言いたいことがあるんだよね、きっと。パトカーの炎上
で、銀行から先が全然見えなかった。あの向こうでも、このあたりと同じように泣き惑ってる人がいるはず。…早く、甲
に会いたい。今度こそ、怖がらないで立ち向かわなくちゃ。








 あーあ、駄目だこりゃ。案の定、バスの営業所辺りで渋滞に捕まりやがった。呼ばれる度に車で行くっつうのが間
違ってんだか。…そこんとこ考えて呼びやがれ、って坊っちゃんに噛み付いても仕方ねえから余計キレるんだがよ。
…ま、溜まったストレスぶちまけても悪くはないわな。

 「…!?たっ、辰巳さん!おやめ下さい!お気持ちはお察し致しますが」
 「へいへい、勝手に察しろって。飽きたらそのうちやめるっつうの」
 「…そ、そんなっ!」

 …苛立ちを抑えきれず、辰巳さんはクラクションを盛んに鳴らされていらっしゃいました。……しかしながら、辰巳さ
んに限らず鬱積した怒りと怯えを表出するかのように、苛立ちは其処彼処から聴こえております。…逃げ場を求め、
悲痛の叫びにも聴こえる音に…胸に手を当て、わたくしはただ聞き届けるほかありませんでした。

 「…あーあ。おい、そろそろ飽きたから降りるぞ。ついて来いよ、蛍」
 「…え、えっ!?」








 最後の勾配を昇りきると。白鳥氏と長門氏、岡部氏と由衣の兄が到着を心待ちにしていたようであった。そして…
……

 「…甲っ」

 …………………。

 違う。金曜までの甲と、全然違って見えた。その目を見れば、誰だって判るもの。…すっごく、眩しい。甲に照らされ
て、あったかいっていうか…あ、ううんっ。

 「ん」

 ……………。

 鷹揚に頷き合い、そして互いに見詰め合う。…由衣の瞳に、際限なき心の広さと青さを知る。認めるものを認め、認
めざるものを認めず。…澄んだ、瞳であった。

 「おーいっ、来てやったぞ!」
 「遅れてしまいまして、大変申し訳ございません!」

 辰巳さんも蛍ちゃんも、ぜえはあって息を切らしながら到着した。辰巳さんはぼさぼさの髪の毛に汗を浮かべて、蛍
ちゃんも首筋にじっとりと汗を浮かべていた。…一生懸命、走ってきたんだよね。副社長さんがぐるっと私達を見回し
て、うんうんと頷いてくれた。

 「…皆、宜しく頼む」
 「…はいっ!」

 威勢の良い由衣の返事が合図となり、皆一丸となりトレーラーへと駆け込む。





 ―――インナースーツを身に纏い、脚力を増強する脚絆を装着する。
 ―――腕力漲る手甲を身に着け、次いで腰部のメイルを取り付ける。
 ―――メイルを着込み、両肩にドライ・セルの内蔵された肩部のメイルを接続する。
 ―――ヘルムを最後に被ることで、初めてコンシールメント・メイルは機能するのだ。
 ―――いざ、災禍の中枢へ。





 …みんなの悲鳴を聞くのが、とっても辛い。銀行の前や地下鉄の駅の回りは、心に火事が起こった人達が逃げ惑っ
ていた。今日は休みで、これから何処か食べに行ったり買い物したりしてる時に現れるなんて。……私、絶対に許さ
ない!

 「―――――!」

 燃え盛るパトカーに、蛍ちゃんがシマー・フォグを投げつけた。アルテリア・ニードルが思わず振り向くと…煤けた色
の煙の代わりに、真っ白な煙が立ち上る光景が見えていた。見る見るうちに、パトカーの炎は小さくなっていく。

 「…待て!」

 自身の一喝に、敵味方問わず見回した先には―――――縹、江戸紫、藍、京紫、鈍。それぞれの甲冑―――コン
シールメント・メイルを身に纏う五名。ニードル達と、鎖帷子を身に纏う四肢無き男を真正面から見据える。

 「とにかくまあ、俺等の素養でも見てもらおうか。昼食妨害の罪は重いってことで」
 クワンタム・シックルを構えて、お兄ちゃんは非実力派の人達と対峙する!

 「安寧秩序を乱す行いを、看過致す訳には参りません!」
 可憐なその瞳に光炎を宿し、非実力派の面々と樋浦は対峙する。

 「ま、俺のストレス解消にはもってこいってとこだ。さて、今日もどうしてくれようか」
 憎まれ口を言いながら両腕を構えて、辰巳さんは非実力派の人達を睨みつける!

 「明日のための今日を…みんなの人生を踏みにじるなんて、私絶対許さないっ!」
 クワンタム・サーベルに手を添え、由衣は夢幻破る瞳をもって非実力派の面々を射抜く。

 「寇賊に、論無し。省するがいい、その賊心を」
 伸ばされる死線に、道心を線縷に代えて甲は非実力派の人達を見抜く!

 「皆、行くぞ」
 「うんっ!」
 「おう」
 「はい!」
 「了解」

 自身の声が鬨の声を代替し、刹那双方の戦場と化す。自身と由衣、由衣の兄は前衛に立ち、城氏は中衛、樋浦は
後衛に陣取る。

 「おらよっ、と!」

 辰巳さんがアレスト・ワイヤーを伸ばして、ニードル2人をすぐさまぐるぐる巻きにした。仕返しに含み針を撃ったけれ
ど、軽くジャンプして簡単に避けていた辰巳さんだった。

 「蛍、兄貴!」
 「はいっ!」
 「はいはい、了解」

 樋浦がシン・ブレードを、由衣の兄がシックルをそれぞれ投げつけニードルを消滅させた。残るは、自身や由衣と刃
を交えるニードル2人。刃を斬り結んでは避け、針を放っては避ける互いを四肢無き男は傍観していたのだった。

 「…っ!」

 なかなか、ニードルに近づけなかった。針を撃たれたらサーベルで打ち落とすしかないし、私達のようにニードルも
素早いし。私と甲の苛立ちを、サーベルの光量子はうねる毎に露わにしていた。



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