このページに掲載されているすべての画像・テキストの無断掲載を禁じます。

第21話 市街泯滅 (しがいびんめつ)








 …あーあ、そのうちクビになりそうな危機ですよホント。昼休みを終えて、これから午後の講座を開講しようかって時
に呼ばれてしまった。キーボードとマウス、モニターと睨めっこするふりして教えるよりアレだが。正義の味方(?)は
辛い。…とか呑気なこと言ってる場合じゃないか。

 「いやあ、どうもすみませんね。親が倒れたってメール来たもんで」
 「いいから早く行きなって。事情が事情でしょうが」

 どうもすんません、と社長(小さいとこだから大したことないが)に頭を下げて俺はすっ飛んで行った。無論、母さん
の所にでなく…札幌駅に、だ。相変わらず懲りない連中だこと。…でもしかし、毎回気になることがあるんですがね。
まあ、よくはないけども今はいいか。おそらく、少なくとも由衣は駄目で伊秩には―――だろうけど、たぶん。




 …突然のお電話でした。自宅から携帯電話を持ち出して以来(出奔した当時は持っておりませんでした)、あたかも
わたくしの心臓であると感ぜられたのは初めてのことで。…何故非実力派の方々は、幾度も同じ過ちを繰り返すので
しょう。何故、非を認めようとしないのでしょう。

 「…まあ、忙しくていいんでないの。これからも暇があったらでいいんだからね」
 「…恐れ入ります。それでは」

 お邪魔致しました、とイトさんへ一礼しわたくしはお宅をあとに致しました。…アスファルトの地面を走る度、足から全
身へと跳ね返る重さが波及します。併せて、わたくしの胸の内を握り潰されるかの疼きも感ぜられるのです。…たと
え自壊しようとも、皆さんの人生を樊籠する行いを看過致すわけには参りません。




 「あー、くそっ。眠たいのによ、ったく」

 気が済むまで舌打ちするぞコラ。…って、んなことしてるのは俺ぐらいだろうが。小遣い稼ぎ、あいつ風に言えば遊
興費稼ぎってとこで割り切ってやるか。ま、ドライブ程度で運動って呼べねえし、運動代わりにひと暴れするのも悪く
はない。お縄にかけてあとは蛍に姫さん、爺様に兄貴の野郎に任せときゃいい。

 「…じゃ、行くぜ」

 …………。この場にいねえにも拘らず、つい癖でぼやいた俺。蛍の家出―――出奔生活(?)も、ようやく板につい
てきやがったらしい。意地張ってねえでいい加減戻れとか思うが、家政婦役がいなくなるのもそれはそれで面倒くさ
い。…ま、今のは俺の都合だがよ。ったく、いつになったら諸々終わるんだか。




 …大学のレポートどころじゃない。怖がってもいいけど、逃げようなんて思っちゃいけない。出来ることが、私にある
なら。私達にしか出来ないことが、私達にあるなら。うちのスナックや近所の公園、近所のお店や近所の憩いの場所
とか……………非実力派の人達に気を遣わないで、のんびり過ごせる毎日を私達が守らなくちゃ。

 「…ママ、パパ。行ってきます。……大丈夫、私ちゃんとお兄ちゃんと一緒に帰るから。辰巳さんも蛍ちゃんも………
甲も、ちゃんと帰れるから」

 …誰もいない私の部屋で、そっとつぶやいた私だった。両手をぎゅっと握り締めると、汗ばむ手より火照った私の手
が辛かった。大義名分とか言い分とか、建前があっても…傷つけていることに、変わりは無いから。それが怖くて辛
いっていう気持ちを、絶対に忘れない。何回も反芻して、私は飛び出していった。




 …臨時ニュース番組には、中継と書かれたテロップと記者の姿が映っていた。奥部の高層タワービルやビル群の
並びから、札幌駅前付近であると見知るには難くない。重ね重ね、通行規制が行われ家常でない様を記者は捲し立
てていたのだった。二度目のそれは、色を包み隠す半宵ではなく、畏怖の色を誇張する白昼の刻であった。

 「…甲、行くか?母さんも親父もいねえし、行くなら今のうちだぜ」
 「…ん」

 鷹揚に頷く自身を見るや否や、父は椅子にかけたジャンパーを羽織り外へと飛び出す。自身も共に外へと駆けてい
った。皆の安否を知り、皆へ安堵を付すべく。互いを悪と罵り、互いを正義と立て通す我々と非実力派。190万人近く
の市民の総意と、190人未満かも判らぬ非実力派の面々。一刻も早く、斯様な関係に終止符を打たねばならないの
だ。








 ……………我々は技術を手にする度、興亡の振幅を無碍に肥大させたのではなかろうか。正史を辿れば、それは
一目瞭然であろう。…壇ノ浦の戦い、応仁の乱。本能寺の変、関ヶ原の戦い。函館戦争、太平洋戦争など。……そし
て。札幌市内という、都心の極めて限定された地域でそれは勃発している。
 先例とは打って変わり、推計千人程のアルテリア・ニードルが無縁法界に立ち回っている。建造物ではなく人の平
常心を燻べる心に、四無量心をもたらすには…回りが速く、成すには程遠い。敵方にいかなる大義名分があれども、
やはり許されざる悪行であるのだ。ホッブズの格言とベンサムの格言とが、自身の心奥にてせめぎあう中で―――
―――
 白鳥氏、長門氏。岡部氏、由衣の兄。樋浦、城氏。そして、由衣と自身が円相を描き突い立つ。皆の瞳に宿るは
―――――

 「…伊秩君、皆。宜しく頼む」
 「…ん」

 恩光の日輪と真澄の蒼天、昏夜の繊月と光炎の燐光。八陣の光風、そして――――――

 「…今回は、私も行こう。君達に常任するのが忍びないからな」

 ――――――義気の温光。十二の瞳は、立破の誓いを宿したのだった。皆、力強く頷きトレーラーへ駆け込む。






 ―――インナースーツを身に纏い、脚力を増強する脚絆を装着する。
 ―――腕力漲る手甲を身に着け、次いで腰部のメイルを取り付ける。
 ―――メイルを着込み、両肩にドライ・セルの内蔵された肩部のメイルを接続する。
 ―――ヘルムを最後に被ることで、初めてコンシールメント・メイルは機能するのだ。
 ―――いざ、災禍の中枢へ。






 「――――――!」

 六所からシン・ブレードの糾弾を身に受け、絶命するニードル六人。一部のニードルが、渋々振り向いた先に。

 「…待て!」

 ――――――縹、江戸紫、藍、京紫、鈍、黒橡。それぞれの甲冑―――コンシールメント・メイルを身に纏う私達。
都心を踏み散らすニードル達を、真正面から見据える。

 「それ以上、お前達の好きにさせん!」
 握り拳を交差し、岡部氏は非実力派の面々を睨視する。

 「とにかくまあ、俺等の素養でも見てもらおうか。再犯の罪は重いってことで」
 クワンタム・シックルを構えて、お兄ちゃんは非実力派の人達と対峙する!

 「安寧秩序を乱す行いを、看過致す訳には参りません!」
 可憐なその瞳に光炎を宿し、非実力派の面々と樋浦は対峙する。

 「ま、俺のストレス解消にはもってこいってとこだ。さて、今日もどうしてくれようか」
 憎まれ口を言いながら両腕を構えて、辰巳さんは非実力派の人達を睨みつける!

 「明日のための今日を…みんなの人生を踏みにじるなんて、私絶対許さないっ!」
 クワンタム・サーベルに手を添え、由衣は夢幻破る瞳をもって非実力派の面々を射抜く。

 「寇賊に、論無し。省するがいい、その賊心を」
 伸ばされる死線に、道心を線縷に代えて甲は非実力派の人達を見抜く!

 「皆、行くぞ」
 「うんっ!」
 「おう」
 「はい!」
 「了解」
 「ああ!」

 自身の声が鬨の声を代替し、刹那双方の戦場と化す。自身と由衣、岡部氏は前衛に立ち、城氏と由衣の兄は中
衛、樋浦は後衛に陣取る。報復の雄叫びを上げんばかりに、20余名のニードル達が得物の含み針を放つ。それぞれ
避けるなり打ち落とすなりして、我々は一斉に業物を抜き放った。



>次ページへ



トップへ
トップへ
戻る
戻る


Internet Explorer6.0で表示確認済。