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第24話 空説立破 (くうせつりゅうは)




 ……………その先を紡げぬ由衣であった。だが、何を言わんとしたかは…否が応でも、思い巡らすには決して難く
はない。僅かに、由衣のみならず皆慄くほかなかったのだった。

 「…ああ。非実力派と、この10年以上にわたり手を組んでいた」
 「なっ…なんだって!?」

 歯を食いしばって、私達より更に戦慄してた副社長さん。噴出しそうな何かを抑えつけるように、はあ、はあと肩で
息を繰り返していた。
 …判んないよ。"ゼロのためのスタートラインを構築する"なんて言っておきながら、街中で暴動まがいのことしかし
ない非実力派を懲らしめるために………私達、戦ってきたはずなのに。どうして、違うの。どうして一緒に、非実力派
とつるんで―――判んないよっ!

 「…さて。哲也、由衣。それまでの経緯を、懇切丁寧に話そう」








 ―――――――








 「…まずは、非実力派についてだ。周知の通り、非実力派とは過激派の武装及びテロ集団だ。"景気格差・経済格
差等をはじめとした地域格差を是正すべく、ゼロのためのスタートラインを構築する"と標榜し、これまで各所にて暴動
を起こしてきた。…無論、これは建前ではあるが」

 「…でっ、では。本来の目的とは、一体何なのですか!?」

 「…ああ。サックルで開発されたこのコンシールメント・メイルの売り込みが本分だ。各所にて非実力派と戦わせ、メ
イルの知名度を上げるべく。これまでの君等の戦いは、いわゆる宣伝活動だ。正義の味方がサックルで、悪役が非
実力派といった所か」

 「…で、メイルを何処に売り込むつもりだ。まさか、物好き相手でないんだろうけども」

 「…無論、個人を相手にではない。警察や消防、自衛隊等の国家権力を相手にな。クローン胚から作製したアルテ
リア・ニードルやタリオン等を相手に、銃弾で太刀打ちできぬ所に…メイルを纏う君達が現れ、難なく打ち倒す。それ
だけでも十分、優位性を示すことができるというわけだ」

 「ふーん。ま、どうせ国家予算云々が火の車の日本に、バカ高いメイルを買い込む余裕なんてねえだろうがよ。あ
ん?」

 「…はは、もっともな指摘だろう。だが…買わざるを得ない、という需要は幾らでも我々に生み出せる。とはいえ、現
段階では地方政令都市程度の規模が関の山だがな」

 「…需要を生むとは、如何様だ」

 「…実に簡単な手法だ。……今回はこのタワービルを倒壊させ、札幌駅を全壊させる。南東を除いた三本の基礎
と、鉄筋を爆破してな」

 「なっ…なんだと!?」

 「…ライフラインが一つ断たれただけで、どうなるかは想像に難くないだろう。………メイルをもってすれば、瓦礫な
ど軽石を持つ程度の力で済む。救助ならびに撤去・復旧作業は、最低でも従来の3倍以上は捗ると試算している。重
機よりも救急隊よりも、遥かに有用であることは火を見るより明らかだ。欲しがらぬわけが無い」

 「…そんなっ……ひどいよ、パパ!わざとビルを倒して無理やりそんなことするなんて、絶対に許されるわけないの
に!どうして―――

 「―――生きるため、だ。学長も仰ってはいなかったか」








 ――――――








 「――――――じゃあ、どうして…………パパが生きるために、ビルを倒して駅も壊さなくちゃいけないの!?おか
しいよ、そんなのっ!怪我する人だっているんだよ?死んじゃう人だっているんだよ?家族だって、路頭に迷うだけじ
ゃなくて…心に大怪我して立ち直れなくなるかもしれないのに!どうしてそんなこと、平気でしようとするのっ!?」

 声を限りに、悲愴をはじめあらゆる悲を託し大喚した由衣。その握り拳は定まらず、言外の情動をわなわなと表して
いる。遣る方ない想いも、込められていたであろう。

 「…繰り返し言うが、生きるためだ。…もう一つ、言い忘れていた―――否、訂正だが。…標榜した建前は、建前で
はなくこれも本音だ。経済基盤が崩れたならば、否が応でも立て直さねばならない。その機会を有識者のみに与える
のではなく、発起を望む者全てに我々は教育を施す。ゼロのためのスタートラインに、皆が立てるよう」

 ……………パパ………………瞼の水瓶からそっと、涙が独り歩きしてる私のこと……ちゃんと、見てよ。ただ見る
んじゃなくて、泣いてる私見てよっ…………

 「はいはい、たいそうご立派な方針と大綱ですこと。惜しむらくは、お慈悲がゼロな所だろうけど」

 と、顎に親指と人差し指を当て由衣の兄は言葉を返した。無慈悲な振舞いへの憤りよりは、寧ろ呆れが表出されて
いよう。…ふふ、と不敵な笑みを由衣の父は零していた。

 「……まあ、今更なんだかんだ聞きはしないが。予備校はともかく、サックルと非実力派によくそんな潤沢な資金が
あるもんだと感心したんですけど、まったく。…で、何処からかき集めてるん―――あ、また聞いたわな。やれやれ」

 …なんて自嘲しながら、お兄ちゃんは頭を掻いていた。ふうってついた溜め息が、私と全然違うやるせなさの表し方
だった。…本当はお兄ちゃんも、泣きたいの……かな。

 「…今更隠す故もなかろう」

 …と、口を開くは社長であった。…岡部氏が未だ、肩で息を荒く繰り返す様を気に留めず。……では、と一言を添え
て話し始める。

 「…外部―――厳密には、同グループ内から資金提供を受けねば。…メイルは愚か、ロボットアームの開発すらま
まならなかった」
 「?!でっ、では…それまでの収益は、収益そのものではなく補填だったというのか!?」
 「…察する通りだ、惣一郎。専ら開発に明け暮れていたお前には判るまいがな」
 「…な、何ということだ………」

 ………………力なく、岡部氏は頽折れた。がちゃりという、メイルの金属音が落胆や失望………負の全てを、表出
していたのだった。…遅まきながら、自身も皆も立破の誓いを燈した瞳は風前に晒されていると、知覚せざるを得な
かったであろうか………………

 「…同グループとは、如何なる企業だ」

 ………………立ち上がれない副社長さんに代わって、甲が訊いた。………低い声だった甲を見るのが、聞くのが
とっても辛い。…私の後ろで、きっと言葉より辛い顔をしてる………きっと。

 「…おそらく、伊秩君。聞いているならば、君も知っている所からだ」
 「…?」

 …由衣の父の発した不意の一言に、眉間に皺を寄せざるを得なかった。自身が知るとは、如何様な意であったの
か。全くして、知る由がないのだ―――――

 「…君のお父様は元気かな。駆け出しの頃から優生学院設立…そして十数年前までは、よく飲み交わす仲だった
と話してはいないか。此処まで言えば、君とて察しはつくだろう」
 「なっ――――――――!?」
 「…こ、甲っ?」

 ―――――初めて、甲の顔が真っ青になった。額から背中から、何処からも冷や汗が流れているみたい。息を呑む
甲に、みんな氷付けにされたような思いで―――――

 「…渾天会あっての、サックルと非実力派、そして優生学院だ」
 「――――――――!」

 刹那、軽い眩暈に襲われた。影も形もない手に、頭部を鷲掴みにされ振り回されるかのごとく。そしてもう一方の姿
なき手が、首を絞めるかに感ぜられ…呼吸すらも、ままならぬ錯覚に陥る。

 「甲っ!」

 …倒れこみそうになった甲に、初めて振り向いて…受け止めた。…重たかった。メイルの分も、甲も……それから、
暗雲の立ち込めた心も。…打ちひしがれた甲を、黙って受け止めるしか―――ううん。それでも、甲は私を受け止め
てくれている。

 「…こ、渾天会とはどのような企業なのですか!?」
 「…平たく言えば、暴力団だ。職務内容は大方察しはつくと思うがな。…さて、話を戻そう。渾天会に限らず、我々
は関連する他企業からも出資を受けている。例えば、昨年まで城君の勤務していたホストクラブだ」
 「…ふーん。…知らねえ所で、片棒を担がされてたとはよ。胸糞悪りいっつうの」
 「伊秩君のお母様や、絹恵―――母さんの働いていたキャバレークラブも」
 「………そんなっ…………」
 「…ことも在り得るとは、何となく思ってはいたけども。まあ、どうせ辞めてんならとうに無関係だし。何気なしに掘り
返すもんじゃねえぜ」
 「ああ、もっともだ。母さんらが直接我々に加担したとは、無論言い難い。また、その出資も微々たるものだ。売上金
の5%を各企業から取りまとめ、我々渾天会の出資金と共に提供してい―――

 ……………。



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