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 …いかん、肩の血行が渋滞してるようでございます。ただいま片側交互通行中で、だるい所ご迷惑をおかけします
が…何卒御協力お願いします、ってか。まあ、3時間もディスプレイと睨めっこしてんじゃアレだけども。

 「…あーあ、ただのパクリっていうか」

 …で、肩こりに悩む俺は居間のパソコンで論文を作成中だ。まあ、何でかといいますと、

 「哲也、本当に大学院行くの?別に働いたっていいんじゃないの」
 「まあ、一応受けるだけ受けてみるわ。そっち系の需要はアレなんですがね」
 「…別に行ってもいいけど、学費出す余裕はないわよ。由衣のほうで手一杯だし」
 「はいはい、ご心配なく。ちゃんとバイト代でたんまり稼いだんで」

 今日は気まぐれで、スナック(兼喫茶店)を臨時休業にした母さんだった。…というわけで(?)、先月に俺はパソコ
ン教室を辞めて大学院受験の勉強をしてるわけだ。…まあ、例えば論文だとか。で、今は俺が辞めたのと入れ替わ
りに元新入君…もとい、長門が働いている。再就職先が見つかって1ヶ月、ちゃんと妹殿を食わしてやってるそうで。




 ―――道内一高い建物の座が変わってから、早1ヵ月半ぐらい経ったか。余裕のなんたらで、駅の1階から俺等は
堂々と脱出した。出た先には警察が100人体制で待ち伏せていて、手際良く親父と岡部親子を逮捕していった。俺等
の会話がおっさんと元新入君に筒抜けだったお陰で、通報したんだそうですが。まあ、内部告発の意味合いも込めて
だな。
 親父が手錠を掛けられる際、由衣は親父にすがりつき…生まれたての赤ん坊よろしく泣きじゃくった。それを懸命に
引き離そうとするのを、許婚君一人に任せたのが心残りではあった。…ヘルムを取った由衣の泣き顔が、鮮烈だった
せいか伊秩は心持ち涙目だったような。俺等もその後、涙なくして語れない事情聴取の洗礼(?)を受けた。
 この一軒のお陰で、渾天会やサックル、その他関連企業にも強制捜査が入った。その結果、押収されたパソコン等
からあれこれ出てきたらしく、それが瓦解の契機となった。サックルや優生学院、関連企業のほとんどは自主廃業し
て、渾天会も有名無実になったというわけだ。…ある意味、お陰で本当の(?)"非実力派"になれたんだろうけど。
 …その非実力派の実力行使による最後っ屁のお陰で、列車は東西に分断され、道路と地下鉄も南北に見事分断
された。都心を結ぶ頼みの綱はバスだけだが、輸送力が間に合わず7月上旬の今でもてんてこ舞いだ。"お金持ち"
になりたくて。…あんたらの本音はそれなんだろうけど。普遍の欲が肥大した結果、瘴気として未だ都心を渦巻いて
いる。




 はい、閑話休題。…普段はカウンセラーで、時には友達という風に敷居を自在に変えられる。そんな感性を持つこと
が、なるにあたっての目標だ。まあ、前にも言ったんだが。それまでに、うまいことカウンセラーの常勤化が出来れば
万々歳だ。俺が卒業する頃までには、いい加減どうにかして頂戴よ。じゃ、3時のおやつ(笑)でも食いますか。
















最終話 相思相愛(そうしそうあい)
















 …エアコンの弱風が、ふうわりとわたくしの髪を撫でました。それに意味を付せば、それは労いとも取れるでしょう。
7月初旬といえど、流石に北国の夜も蒸し暑く感ぜられます。ただいまの室温は、26度をさしておりました。

 「ふーん、これで全部か」
 「…ええ。初めて辰巳さんとお会い致しました時に、病院にて貴重品等を全て持ち去られてしまいましたので。…中
身のほとんどは衣服と、あとは教科書やノート類、学生服、筆記用具のみです。…お恥ずかしい限りですが」
 「へいへい」

 蛍はバッグのファスナーを閉じ、何気なくレコーダーの時計を眺めていやがった。時刻は午後6時をまわっている。
丁度夜のニュース合戦(?)でも繰り広げてる時間だ。…ま、それなりに腹も減ったがその前に。

 「で、あんたが世話になった婆様に言ってきたんだろ」
 「はい、先日お伺いしました時にお話致しました。わたくしが戻るとお聞きになられて、たいそう喜んで下さいまし
た」
 「ま、そりゃそうだ」

 と仰いながら、ソファに座る辰巳さんは腕を伸ばされていらっしゃいました。伸ばした腕の先に、頬の紅潮を引き立
てる夕陽が燦々と輝いておりました。それは惜しみなく、誰にも等しく降り注ぐ恩光でしょう。…辰巳さんと、わたくし
へも分け隔てなく労っていたのでした。

 「…ったく、今日の今日まで居座りやがって。さぞ気持ちよかったんだろうがよ、な」
 「…申し訳ございません。本日までわたくしの我侭にお付き合い下さいまして…………まことに、有難うございまし
た」
 「へいへい、どういたしまして。まだ母上さんと喧嘩してたとかって言ってんなら、とっくにほっぽり出してたけどよ」

 …話し遅れたが気にすんなよ。渾天会がぶっ潰れてからも、蛍は結局俺の所に居座りやがった。ま、俺に見られて
頬に桃を二つ作るんじゃ、動機は分からなくもねえが。週に一度、こいつにああしてやるのが俺の癖にもなった。未だ
に頬を赤らめて照れやがるが、それでも最近は満更でもなくなったっつうか。

 「…じゃ、腹も減ったし行くか。……適当に仲良くも喧嘩もしとけよ。………それと、貴重品は肌身離さず持っとけ
よ。またおめえに泣かれたら、困るっての」
 「…はいっ」

 頷いたわたくしをご覧になって、辰巳さんは歓笑されていらっしゃったのでした。…わたくしと辰巳さん。本来は忌避
し合う間柄である筈にも拘らず、こうして睦まやかでいられるのかと…時に話し合うこともあります。それは…もしや、
イトさんのお陰でもあるのではとわたくしは思います。
 もしお聞きしたならば、イトさんはおそらく首を横に振られるのかもしれません。…そして、わたくしと辰巳さんへ斯様
に仰るのではと思うのです。……お互いの真摯な慕情が、ふたりを結ねたんだよ………と。

 「おい、ぼけっとしてねえで行くぜ」
 「はいっ」

 …にこりと笑ってから、バッグを持って蛍は立ち上がった。何となく重そうにしてやがる。…ま、せっかくだしついでに
やっとくか。

 「あっ…」
 「…ま、餞別ぐらいに思っていいんじゃねえの」

 …束ねた髪を添うようにして、辰巳さんはわたくしの頭を撫でてくださいました。……本流を愛しむ笑みに思わず、
顔が綻んでしまいます。そして…わたくしの両頬にふたつ、水蜜が生まれたのでした。羞恥からではなく、……ええ
と…そ、その………。

 「有難うございます。…辰巳さんっ」
 「へいへいっ、どういたしまして」

 照れてんのを横目で見てやりながら、俺は玄関のドアを開けた。…可愛くなりやがって。









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